中東情勢が緊迫化するたびに、「有事の円買い」という言葉をニュースやSNSで目にすることが増えました。
円高が進むと身構えていたら、実際にはドル高・円安の方向に動いて戸惑った、という経験を持つトレーダーも多いでしょう。
この記事では、有事の円買いと有事のドル買いがそれぞれどのような仕組みで起こるとされているのか、円キャリートレードの巻き戻しや資金のレパトリエーションといった背景から整理します。そのうえで、リーマンショックやコロナショックといった過去の実例で相場がどう動いたのかを振り返り、近年指摘されている「有事の円買いは薄れている」という見方についても両方の立場から確認していきます。
有事による値動きは、FOMCや雇用統計のようにあらかじめ発表日時が決まっている経済指標とは違い、予告なく相場を動かす点が大きな特徴です。経済指標が相場に与える影響を先に押さえておくと、有事の値動きとの違いがより見えやすくなります。

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有事の円買い・有事のドル買いとは何を指す言葉か

有事の円買いとは、戦争や紛争、大規模なテロ、金融危機など世界的なリスクが高まった局面で、比較的安全な資産とみなされてきた円が買われやすくなるという相場の経験則を指す言葉です。
一方の有事のドル買いは、同じような局面で世界の基軸通貨である米ドルが買われやすくなるという現象を指します。どちらも「有事に資金がどの通貨へ逃避しやすいか」という同じテーマの裏表の関係にあり、実際にどちらが優勢になるかは、そのときの出来事の性質や金融環境によって変わってきました。
そのため、「有事は必ず円が買われる」あるいは「必ずドルが買われる」と一律に決まっているわけではなく、あくまで過去に繰り返し観測されてきた傾向の一つとして理解しておくことが大切です。
なぜ有事に「円が買われる」と言われるのか
有事の円買いが起こるとされる背景には、主に次のような仕組みが挙げられます。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 円キャリートレードの巻き戻し | 低金利の円を借りて高金利の通貨や資産で運用する「円キャリートレード」を行っていた投資家が、市場の混乱時にリスクを避けるため、ポジションを解消して円を買い戻す動き |
| 資金の国内回帰(レパトリエーション) | 海外に資産を持つ日本の投資家や企業が、リスク回避のために海外資産を売却し、資金を円に換えて国内に戻す動き |
| 対外純資産国としての需給面 | 日本が長年にわたり世界有数の対外純資産国であることから、有事の際に自国通貨である円に資金が向かいやすいとする見方 |
特に円キャリートレードの巻き戻しは、証券会社や銀行の解説コラムでも繰り返し取り上げられている代表的な仕組みです。低金利の円を調達通貨として使う投資家が世界的に多かった時期ほど、有事の際の巻き戻しの規模も大きくなりやすいとされています。
一方で「有事のドル買い」が起こるのはなぜか

米ドルは世界の基軸通貨であり、貿易決済や各国の外貨準備の中心として使われているため、危機時には流動性が高く換金しやすい米ドル建て資産(米国債など)に資金を移す「質への逃避」と呼ばれる動きが起こりやすいとされています。
また、有事の内容によっては原油などの資源価格が高騰する場合があり、資源を輸入に頼る日本のような国では、輸入コストの増加が貿易赤字要因となって、円売り・外貨買いの圧力が強まる場合もあります。実際に2022年以降の局面では、この資源高を背景にした円安が目立つ場面も見られました。
このように、有事の際にどちらの通貨が優勢になるかは、危機の性質や日本経済への影響度合いによって変わりうるという点を押さえておく必要があります。
過去の実例に見る有事の相場変動

「有事の円買い」「有事のドル買い」が実際にどのように現れてきたのか、過去の代表的な出来事を振り返ってみます。
| 出来事(時期) | 主な相場の動き(概要) |
|---|---|
| リーマンショック(2008年) | 破綻直後は円買いが先行し、1ドル107円台から100円を割り込む水準まで円高が進行。その後も世界的な金融不安を背景に円高基調が続き、2011年には1ドル75円台まで円高が進む場面もあった |
| コロナショック(2020年) | 感染拡大への懸念から2020年3月に一時1ドル102円台まで円高が進行。その後は各国の大規模な金融緩和策や市場心理の変化から短期間でドルが買い戻される場面もあり、値動きの荒い展開となった |
| ロシアによるウクライナ侵攻(2022年) | 侵攻直後は一時的に円が買われる場面があったものの、資源価格の高騰による貿易赤字懸念や日米の金融政策の方向の違いから、その後はむしろ円安・ドル高が進行した |
過去の実例を振り返ると、有事の直後には一時的な円買いやドル買いが見られる場面はあるものの、その後どちらの方向にどれくらい動くかは、そのときどきの金融政策や資源価格、貿易収支など複数の要因によって左右されてきたことが分かります。将来の有事でも同じパターンで相場が動くとは限らない、という前提を踏まえたうえで、過去の実例を参考にする姿勢が欠かせません。
「有事の円買いは薄れている」と言われる近年の変化
2022年以降、大手経済メディアの報道では、「有事の円買い」という従来の経験則が以前ほど機能しなくなっているとの指摘が相次いでいます。
背景として挙げられているのが、日本が長期にわたって低金利政策を続けてきたことによる円の相対的な魅力の低下と、資源価格の高騰によって日本の貿易収支が悪化しやすくなった構造の変化です。実際に2022年のロシアによるウクライナ侵攻や、その後の中東情勢の緊迫化といった局面では、有事にもかかわらず円安・ドル高が進む場面が見られ、調査機関のレポートでも同様の傾向が分析されています。
一方で、こうした変化がすべての有事に当てはまるとは限らないとする見方もあります。危機の規模や日本経済への影響度合いによっては、これまでどおり円が買われる場面も引き続き起こり得るため、「有事の円買いは完全になくなった」と断定することも難しいというのが実情です。
有事の値動きに備えるために知っておきたいこと

ここまで見てきたとおり、有事の際にどちらの通貨がどれだけ買われるかを事前に正確に読み切ることは難しいものです。だからこそ、値動きの方向を当てにいくのではなく、不確実性そのものに備える意識が大切になります。
値動きの方向を決めつけないことがまず重要です。過去の実例のとおり、有事の直後にどちらの通貨が買われるかは一様ではないため、「今回も同じ方向に動くはずだ」という思い込みでポジションを取ることは避けたいところです。
ポジションサイズを普段より抑えることも有効です。有事の発生直後は値動きが荒くなりやすく、想定以上のスプレッド拡大や急激な価格変動が起こることもあります。
損切りラインをあらかじめ決めておくことで、急変時にも感情に流されずに対応しやすくなります。
こうした基本的な備えを普段のトレードから習慣にしておくことで、突発的なニュースが飛び込んできたときにも落ち着いて対応しやすくなります。
まとめ
有事の円買い・有事のドル買いは、いずれも世界的なリスクが高まった局面での資金の逃避先を説明する経験則であり、円キャリートレードの巻き戻しや資金のレパトリエーション、米ドルへの質への逃避や資源価格の変動など、複数の要因が絡み合って生じるとされています。
リーマンショックやコロナショックのように円買いが先行した局面もあれば、2022年以降のように円安が進んだ局面もあり、近年は「有事の円買いは薄れている」との指摘も増えています。過去の実例はあくまで参考の一つと捉え、値動きの方向を決めつけずにリスク管理を徹底する姿勢が、有事の相場と向き合ううえでの基本になります。
よくある質問
- 有事の円買いとは具体的にどのような意味ですか?
-
戦争や金融危機など世界的なリスクが高まった局面で、比較的安全な資産とみなされてきた円が買われやすくなるという相場の経験則を指す言葉です。
- 有事の円買いと有事のドル買い、結局どちらが正しいのですか?
-
どちらか一方が常に正しいわけではありません。有事の内容や当時の金融環境によって、円とドルのどちらが優勢になるかは変わってきました。
- 過去の金融危機ではドル円はどのように動きましたか?
-
リーマンショックやコロナショックでは一時的に円高が進む場面がありましたが、その後の展開は当時の金融政策や市場心理によって異なりました。
- 最近は有事でも円が買われにくくなっていると聞きましたが本当ですか?
-
資源高や低金利の継続を背景に、以前ほど円が買われにくくなっているとの指摘が増えていますが、すべての有事に当てはまると決まっているわけではありません。
- 有事の相場でFX取引をする際に気をつけることは?
-
値動きの方向を決めつけず、ポジションサイズを抑えて損切りラインを事前に決めておくことが大切です。

